高校で書道部へ入ったみなさん、中学生から引き続き書道に取り組むみな、みなさんがこれから取り組む「書道」は、ただ文字を書くことではありません。それは、千年を超える歴史のなかで、多くの人が心を込めて書き継いできた「文化」であり、「芸術」であり、そして「対話」です。
1 書写と書道のちがい
中学校で学んできた「書写」と、高校で学ぶ「書道」は、似ているようでまったく異なる教科です。まず、大きなちがいは教科の分類です。書写は国語科に含まれ日常生活で必要な文字を正しく、整えて、読みやすく、速く書くことを目標としています。言ってみれば、「伝わるための文字」を学ぶのが書写です。
一方、書道は芸術科に属します。筆と墨を用い、線の強弱や余白、構成にこだわりながら、文字を通して自分自身を表現することが目標です。感情、思想、美意識、それらを文字に託し自分を表現するのが書道です。どちらも同じような用具用材を使いながら「書く」ことに変わりはありませんが、たどる道とその先にある世界は大きく異なります。
2 書道における「古典」とは
「古典」と聞くと、源氏物語や枕草子などの文学作品を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、書道でいう「古典」は、少しちがいます。書道における古典とは、「古人が書いた優れた筆跡」のことをいいます。彼らの書は、何百年、千年を経てもなお色あせることなく、書の美しさ・精神・技術のすべてが詰まっています。
3 臨書とは何か
臨書(りんしょ)とは、古典を手本として学び、またはそのようにして書いた作品のことをいいます。
小学校や中学校では、主に先生が書いたお手本を見て練習することが多かったと思います。しかし、高校の書道ではそれとは違い、古典を直接手本として学ぶのが基本になります。古典の書をじっくり観察し、どこに力を入れているのかどんな筆の動きをしているのか字の大きさや配置にどんな工夫があるのかそういったことを一画一画分析しながら書きます。
臨書は、ただ真似る練習ではありません。古人の書に込められた技術・美意識・精神を読み取り、自分の筆を通して体験する深い学びです。臨書を重ねることで書の基礎が身につき、やがて創作へとつながっていきます。創作は書道の最終目標で、臨書は書道の原点にして未来への扉なのです。
私たちは、この古典と向き合い、臨書を重ねることで、書の基礎を学び、書き手の心に迫り、やがては自分自身の「書」を生み出していきます。
4 最終目標「創作」
書道における最終的な目標は「創作」です。創作とは、自らの創意工夫によって行う表現のことです。臨書によって培った技術・美意識・精神に、自分なりの工夫や発想を加え、独自の作品をつくり上げる――それが創作です。
5 落款
書道作品は、「本文」と「落款(らっかん)」という二つの要素で構成されます。落款とは、「署名」と「印」のことを指します。これは単なる付け足しではなく、本文と並ぶ重要な構成要素であり、決して軽視してはなりません。
署名については、臨書の場合は名前や雅号の後に「臨」と記すのが通例です。創作の場合は「書」と書くのが一般的です。署名はサインですので、自分らしくかっこよく書く工夫を凝らしたいところです。
そして、印こそ細やかな配慮と美意識が求められる部分です。署名が美しく工夫され、印が鮮明に押されている作品は、それだけで作品全体の完成度を高めます。よく考えてみてください――小さな印にまで心を配り、署名に工夫を凝らしている人が、本文に無頓着なはずがありません。落款まで含めて、ひとつの作品なのです