君たちが去つた最初の朝、書道室はがらんとしてしまったよ。
墨の匂ひだけが、きのふまでの喧騒をまだ覚えてゐる。床の養生テープの痕が君たちが敷いた巨大紙の輪郭を幽かに示し、雑巾で拭ひ残した小さな墨滴が歓声の余韻みたいに点々と残つてゐる。乾きかけの筆、誰かが忘れていつたプリント、カレンダーのきのふに赤丸――どれもが、まだ時間を止めたまま動かない。
静かだ。けれど空ではない。
いま消した黒板の片隅に「いつも通りでは届かない」と書かれた練習メモが薄く残る。彼女らはなぞるだけでは継承にならぬと知つてゐる。君たちが残した線の起筆と収筆、その間に走つた迷ひや工夫を読みとり、自分の筆路でさらにのばすつもりでゐる。臨書で掴んだ骨格に君たちの呼吸を重ね、そこへまた己の拍動を重ねる。重ねるほどに違ひが立ち上がり、そこから次の「届かせ方」が生まれるのだと、彼女らはもう感じ始めてゐる。
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